名曲探偵アマデウス・ショスタコーヴィチ5番の巻

 依頼者は、ショスタコーヴィチと同じ年に生まれた松竹新喜劇の看板俳優兼作家、ではなく「ハゲタカ」みたいな企業再生屋の舘直志。演じる俳優さんは、「アストロ球団」の長島茂雄役でおなじみの神保悟志。以上、ほとんどの方には意味がよくわからない表現があるかと思いますがスルーしてくださいね。いつもながら設定に無理のある小芝居については省略。

http://www.nhk.or.jp/amadeus/quest/48.html

 さて、ショスタコーヴィチの5番という、この誰がどう言ってもどっかから文句の出そうな曲をどう扱うかと思ってたんですが、面白く見ました。

井上道義さん&荒井英治さん
 日本を代表するショスタコ振りとショスタコ弾きに話を聞きに行くというは、さすが!わかってるなあと思いました。ショスタコーヴィチの音楽に感じていることを率直に語っている感じで面白かったです。

・野本由起夫さん
 いつもながら、野本先生のところは勉強になりますねえ。最初のカノンを延々と繰り返す自問自答と捉えるというのはなるほどと思いました。

亀山郁夫さん
 第4楽章の冒頭が「カルメン」の「ハバネラ」の「信じるな」だという話。
 この曲と「カルメン」の類似については、すでに1967年にソ連の研究家レオ・マゼリが指摘しているそうですが(DSCH社の全集第20巻、交響曲第5番連弾版 ― 下にアフィリンク張っておきます ― のマナシール・ヤクーボフによる解説にそうありました)、その解釈についてはいろいろありますね。ただ、亀山さんの「社会主義体制に対する『信じるな』」説は、正直、信じられんなあという感じがします。といっても、反証があるというわけではなく、信じるにはいまひとつ証拠が足りないなあということです。

 私は、ショスタコーヴィチの音楽にスターリンとか社会主義体制に対する抗議のメッセージを見つけたという説は、よほど慎重な検証をしたうえでなければ信じないほうがいいと考えています。というのは、それはみんなが見つけたい、あると信じたいものであり、探せば簡単にこじつけられるものであるからです。別に、そういうものが隠されている可能性を否定しているわけじゃないですよ。

 亀山説に戻ると、どうも説得力がないなあと思うのは、この説では、引用が『カルメン』でなければならなかった理由というのがなんにも説明されていないからです。社会主義体制に対する「信じるな」だったら、第1楽章の "L'amour..." はなんなんでしょうね。そもそも体制に反抗するのに、『フィデリオ』でも『フィガロ』でもなくて、なんでわざわざ『カルメン』?

 それなら、上述のヤクーボフの解説で紹介されているベンディツキー(2000)の説、つまり、当時ショスタコーヴィチが熱を上げていたエレーナ・コンスタンチノフスカヤという女性が、スペインに行ってロマン・カルメンという男(映画監督です)と結婚してしまったことに関係あるという方が、まだ可能性はあると思います。もちろんこれも絶対とは言いませんが。余談ながら、ロマン・カルメンの監督した『スペイン』という映画は、かのガヴリール・ポポフが音楽を担当し、ポポフはこれを後に改編して交響曲第3番としています。

ベンディツキー説等については『フィルハーモニア』誌の中田朱美氏の解説を参照(PDF)
http://www.nhkso.or.jp/archive/pdf/backnumber/pamph09Oct.pdf


連弾用編曲。作曲者自身によるものではありません。この曲のスケッチ(ファクシミリ13枚+楽譜38ページ)も付いてます。


亀山郁夫さんの本。


荒井英治さんのモルゴーア四重奏団によるショスタコーヴィチ。完結はしないんでしょうか。


この長嶋は似てましたねえ。


ハゲタカ。意外とセルフパロディが好きなNHK。


「あのーもしもしお父さんですか」の元ネタ。