2016-04-08 ブゾーニ生誕150周年記念レクチャーコンサート〜

新発見のブゾーニ自筆の風刺画と聴く
フェルッチョ・ブゾーニの世界
ブゾーニ生誕150周年記念レクチャーコンサート〜
http://busoni150.jimdo.com/

2016年4月8日(金)18:30開場、19:00開演
ロームシアター京都(京都市左京区岡崎最勝寺町13)ノースホール

出演
井村 理子(ピアノ)
北岡 羽衣(クラリネット
畑野 小百合(お話)

オール・ブゾーニ・プログラム(お話つき)
 カルメン幻想曲(ソナチネ第6番) BV 284
 バッハ=ブゾーニ コラール前奏曲「目覚めよ、と呼ぶ声あり」 BWV 645
実演付きレクチャー
 「検証! ブゾーニ版 J. S. バッハ《ゴルトベルク変奏曲BWV 988の魅力」
クラリネット&ピアノ
 ソロ・ドラマティック BV 101
 ノヴェレッテ BV 116
 エレジー BV 286
 ソナチネ第2番 BV 259
<アンコール>
 不機嫌の歌(ゲーテ詞)…クラリネットとピアノのための編曲

 いやー、120分間、ブゾーニの作品の演奏とブゾーニについてのお話だけという、夢のようなコンサートでした。ロームシアター京都の地下2階にあるノースホール(小ホール)でのコンサートで、席数は100ぐらいかと思いますが結構埋まっていました。畑野さんは、ベルリン芸術大学の博士課程に在学、ヘルマン・ヴォルフ音楽事務所についての博士論文を執筆中とのことです。今回は、新発見のブゾーニ直筆の風刺画も展示されました。
http://micro.rohm.com/jp/rmf/blog/category/syougakusei-report/%E7%95%91%E9%87%8E-%E5%B0%8F%E7%99%BE%E5%90%88%E3%81%95%E3%82%93ms-sayuri-hatano/

 《カルメン幻想曲》の演奏に続いて、畑野さんによる、ブゾーニという音楽家についてのお話。知らないことだらけで驚きの連続でした。ブゾーニの息子ラファエロは日本人のヒデという女性と結婚していたが、彼女は晩年のブゾーニとは折り合いが悪く、ブゾーニが「むっつりとした仏陀のような女だ」と言ってたとか。彼女、ヒデ・ブゾーニのパスポートも見せてくださいましたが、写真ではかなり現代的な顔に見えました。ヒデもピアニストとのことで、おそらく日本で生まれ育った日本人ではないのではないかとのことでしたが、さもありなんと思います。
 続いて《ゴールドベルク変奏曲》の解説。これは、まず全体の構成の違いを紹介し、次に、特徴的ないくつかの変奏を、楽譜をスライドで見せながら解説し、部分的に井村さんのピアノで聞き比べるというものでした。こうやって解説とともに聴くと、ブゾーニの一貫した編曲意図、ブゾーニのこの作品の捉え方、そして現代のわれわれとの感覚の違いなどが浮彫になって、これも非常に面白かったです。

 後半は、クラリネットとピアノの二重奏ではじまりました。3曲とも非常に珍しく、まさか生で聴けるとは思わなかった曲ばかりだったんですが、晩年の《エレジー》がやはり一番いいですね。
 次に風刺画の解説。絵は、ブゾーニと大きなザリガニが対話しているというものです。これはブゾーニの前衛性について批判した批評家カール・クレープスを、後ろにしか進めず、ハサミと甲羅はもっていても耳のないザリガニ(Krebsにはザリガニの意味もある)に見立てて皮肉ったものです。畑野さんは、ベルリン・フィルの設立、運営にも大きな影響のあった非常に重要な音楽エージェントである、へルマン・ヴォルフ音楽事務所について研究されているのですが、これはアメリカにいるヴォルフの子孫を訪ねたときに、その人に見せられたものだそうです。畑野さんが「これはブゾーニの直筆です」と興奮していると、You can take it. 「持って帰っていいよ」と言われ、何度も確認したうえで譲り受けたとのことでした。音楽家が批評家の悪口を言うのは珍しいことではないですが、これはその中でも傑作じゃないでしょうか。
 最後はピアノ独奏に戻り、ブゾーニの実験性がよく出た作品としてソナチネ第2番が演奏されました。例のファウスト博士の悪魔召喚のところでも出てくる曲ですが、井村さんの演奏、非常に熱のこもったものですばらしかったです。
 アンコールとして、ゲーテの詞による歌曲《不機嫌の歌》がクラリネットとピアノの編曲で。これも貴重です。クラリネットがとても表現力豊かで、本当に声みたいでした。こういうコンサート、東京では結構やっていると思うんですが、関西では少ないので、ありがたいです。畑野さん、井村さん、北岡さん、ロームさん、ありがとう!聴けてよかった!