北米オケの音楽監督候補たち(3) フェアファクス響

 3回目は、ワシントン首都圏のフェアファクス・カウンティにあるフェアファクス響です。ワシントン地域でナショナル響に次ぐオケです。このオケは、1971年から実に36年間このオケを率いてきた前音楽監督ウィリアム・ハドソン William Hudson の勇退に伴い、次期音楽監督を捜していて、6人の最終候補が決まっています。すでに6人とも演奏会は終わっていて、5月20日(3日後ですね)に会議が開かれ、おそらくその時に決まるものと思われます。


ポール・ハース Paul Haas
http://www.fairfaxsymphony.org/PaulHaas.shtml
http://www.symphoconcerts.org/haas.php

 イェール大学とジュリアード音楽院で学んだポール・ハースは37歳、以前ニューヨーク・ユース響の音楽監督をしていたのですが、その時に ASCAP/American Symphony Orchestra League Leonard Bernstein Award for Educational Programming というのを受賞していて、ユース・オケの受賞はこれが初だったそうです。現在は、SymphoNYC(ダジャレですね…)という室内オケを創設して、そこの指揮者をやっています。
 フェアファクスでは2008年9月20日に、チャイコフスキーの4番、ラフマニノフパガニーニ狂詩曲(ギンジン独奏)、それにペンマン Penman の『植物たちが私たちに教えてくれた歌 Songs the Plants Taught Us』という曲を振りました。


マルチェロレーニンガー Marcelo Lehninger
http://www.fairfaxsymphony.org/MarceloLehninger.shtml
http://www.marcelolehninger.com/
http://www.youtube.com/watch?v=bA3G5AHwLUI

 レーニンガーはリオ・デ・ジャネイロ生まれの29歳、Youth Orchestra of the Americas のミュージック・アドヴァイザーで、このオケを連れて南米ツアーも行いました。また、ワシントン・ナショナル響ではアシュケナージやスラトキンの代役も務めています。10月25日にリムスキー=コルサコフの『シェヘラザード』、ファリャの『スペインの夜の庭』(アンジェラ・チェン独奏)、ヴィラ=ロボスの『ブラジルの田舎者の小さな汽車』というプログラムを振りました。


ローラ・ジャクソン Laura Jackson
http://www.fairfaxsymphony.org/LauraJackson.shtml
http://www.laurajackson.net/

 唯一の女性、ローラ・ジャクソンは、2007年までアトランタ響の副指揮者で、この3月に、ネヴァダ州北部とカリフォルニア州をエリアとするレノ・フィルハーモニックの次期音楽監督に決定しています。ちなみにレノ・フィルも、5人の最終候補者を発表してその中から選ぶ方法で、ジャクソン以外の候補者は、Rebecca Miller, Jeffery Grogan, Sarah Hatsuko Hicks, Christopher Confessore という人たちでした。
 ジャクソンは、2008年11月22日に、ベートーヴェンの7番、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番(レイチェル・リー独奏)、テオファンディス THEOFANIDIS の Rainbow Body という曲を振りました。


ダニエル・マイヤー Daniel Meyer
http://www.fairfaxsymphony.org/DanielMeyer.shtml
http://www.youtube.com/watch?v=ULdKyyOrQR4

 ダニエル・マイヤーはクリーヴランド生まれの36歳、先日紹介したリッチモンド響でも最終候補に残っていました。アッシュヴィル響及びエリー・フィル音楽監督になることが決まっています。フェアファクスでは、1月17日に、ブラームスの1番、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番(ジェニファー・フラウチ独奏)、バーンスタインの『オン・ザ・タウン』から3つのダンス・エピソードという演奏会を振りました。


グレゴリー・ヴァジダ Gregory Vajda
http://www.fairfaxsymphony.org/GregoryVajda.shtml
http://www.vajdag.com/home.html
http://www.vajdag.com/music.html (試聴リンク)

 ヴァジダ(ヴァイダ?)は1973年ブダペスト生まれ、ソプラノ歌手のヴェロニカ・キンチェシュの息子です。エルヴィン・ルカーチやペーター・エートヴェシュの弟子で、オレゴン響レジデント・コンダクター、ブダペスト・ドホナーニ響首席指揮者、オーストリアハンガリーハイドン管弦楽団のメンバー(これはクラリネット奏者としてかもしれません)などを務めてきたそうです。3月14日に、シューマン交響曲第2番、バルトークのピアノ協奏曲第3番(アンドリュー・アームストロング独奏)、リストの『前奏曲』を振りました。


クリストファー・ジンマーマン Christopher Zimmerman
http://www.fairfaxsymphony.org/ChristopherZimmerman.shtml
http://christopherzimmerman.net/ (BGMあり)

 この人はイギリス出身の50歳、6人の中で最年長です。タングルウッドで小澤征爾とガンサー・シュラーに学び、英国やアメリカのいろいろなオケを振っています。シティ・オブ・ロンドン室内管を創設し、首席指揮者となりました。1993年からシンシナティ・コンサート・オーケストラ、1994年からメーン州のバンゴール Bangor 響、1999年にはコネチカット州ハート Hartt 響、2001年から南西テキサス響の音楽監督となっています。これ、全部今も在任ってことはないでしょうけど、よくわかりませんでした。
 演奏会では、5月2日にショスタコーヴィチ交響曲第10番、チェコの作曲家ボドロヴァー Sylvie Bodorova の『花の協奏曲』"Concerto dei Fiori" (チー・ユン独奏)、それにハイドン交響曲第39番を振りました。ちなみにボドロヴァーの曲は12分ほどで、1998年にジンマーマン自身が米国初演したそうです。


6人の音楽監督のインタビューと演奏の一部がYouTubeで見られます。
http://www.youtube.com/user/fairfaxsymphony

なお、この6人の演奏会を聴いたワシントン・ポスト紙のM.J.エストレン Mark J. Estren 氏の評がありました。まず、6人のうち、ジンマーマンを除く5人の演奏を聴いた時点での評です。この中で、エストレン氏は5人にあだなを付けています。ちょっと紹介しましょう。

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/03/15/AR2009031502026.html

・ハースは the Tinkerer(いじり回し屋), いつも作曲家のテンポを変えて、楽譜からさらに感情を引き出そうとする。
レーニンガーは Mr. Methodical(几帳面氏), まじめでビジネスライク。
・ジャクソンは、Ms. Angularity(角張り女史), ちょっとカクカクした神経質な癖がある指揮。
・マイヤーは a bargain-basement Bernstein(廉価版バーンスタイン), 長髪で、指揮台の上では大げさな動作。
・ヴァジダは the Swooper(ひったくり), 普通はオペラを振るときに使うような非常に幅のある身振りを好む。

ヴァジダの評はちょっとよく意味がわかりませんが、結構きついですね。

最後の一人、ジンマーマンの評はこれです。わりと好意的な感じですが、ショスタコーヴィチの10番を選んだことを、ずいぶん大胆なプログラミングであるように書いてます。ロストロのかつてのお膝元でもまだそんな感覚なんですかねえ。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/05/03/AR2009050301972.html