2011-04-09 クレーメル・トリオ

ギドン・クレーメル(Vn)ギードレ・ディルヴァナウスカイテ(Vc)ヴァレリー・アファナシエフ(Pf) トリオ・コンサート

2011年4月9日 Sat 17:00 ザ・シンフォニーホール

シュニトケショスタコーヴィチ追悼の前奏曲
バッハ:シャコンヌ
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 op.108
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ヴィクトリア・ポリェーヴァ:「ガルフ・ストリーム」
ショスタコーヴィチピアノ三重奏曲 第2番 op.67

当初予定されていたピアニストのカティア・ブニアティシヴィリが震災の影響で来日できなくなり、なんとアファナシエフに変更、曲目も大幅に変わるということで、あわててチケットを買いました。ちなみに変更前はこんなプログラムでした。

バッハ / シャコンヌ
ヴィクトリア・ポリェーヴァ / 「ガルフ・ストリーム」
シューマン / ピアノ三重奏曲 第3番 ト短調 op.110
チャイコフスキー / ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」 op.50

客の入りは7割ぐらいだったですかね。アファナシエフが出たということもあり、いろいろ驚きのある演奏会だったのですが、以下の感想はネタバレありです。ご承知おきを。

シュニトケショスタコーヴィチ追悼の前奏曲

 ショスタコーヴィチのDSCHとバッハのBACHの音型を元にして、ヴァイオリンとテープのために書かれた小品です。テープにはクレーメル自身の(たぶん)ヴァイオリンが録音されていて、一人二重奏をする形になります。この曲、クレーメルとガヴリーロフの弾いたショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタのLPで、フィルアップ(というかショスタコーヴィチの前置き)として入っていたので、何度も聴いた曲です。ついでながら、シュニトケの曲を聴いたのもこれが初めてでした。

 今回初めて生で聴いたんですが、最初、舞台上のクレーメルが一人で弾いていると、途中から舞台裏のテープ演奏が加わってきて、そちらが主導権を取ります。こういう演出がシュニトケの指定なのかどうかわからないのですが、私には、舞台上のヴァイオリンが死者(ショスタコーヴィチ?バッハ?)への呼びかけ、そして舞台裏からのヴァイオリンが、死者からの応答であるように思えました。短いながら、非常に印象的な曲です。

◆バッハ:シャコンヌ
 クレーメル無伴奏は名演として有名ですが、今回の演奏も良かったです。昔みたいにめちゃくちゃ鋭いわけでもなく、ギコギコ汚いわけでもなく、なんというか、骨太さを感じる演奏でした。

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 op.108
 ここからアファナシエフが登場。このブラームスは完全にアファナシエフ中心の演奏になっていました。第1楽章では旋律がピアノに移るととたんに好き放題遅く歌い出すし、第2楽章では最初のピアノの和音が、伴奏という感じではなくて前に出ているので(ピアノの蓋も完全に開けてます)、力強いコラールみたいに聞こえます。好き嫌いはともかく、アファナシエフらしいとしか言いようがない面白い演奏ですね。

◆ヴィクトリア・ポリェーヴァ:「ガルフ・ストリーム」
〜バッハ、シューベルト、グノーの主題によるヴァイオリンとチェロのための二重奏曲〜
ギドン・クレーメルとギードゥレ・ディルバナウスカイテのために書かれた2010年の新作)

 川田朔也さんの解説によると、ポリェーヴァは1962年キエフ生まれの作曲家とのこと。副題を見れば、ああだいたいこういうことか、と気づくかと思いますがその通りで、バッハ=グノーとシューベルトの『アヴェ・マリア』を組み合わせたパロディです。といっても冗談音楽というわけではなく、美しい小品です。最初はチェロがバッハの平均律第1番、ヴァイオリンがグノーの旋律を弾くんですが、チェロのほうはときどき無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュードに入れ替わったり、いろいろ工夫があります。後半は、ヴァイオリンが伴奏に回って、チェロがフラジオレットシューベルトアヴェ・マリアの旋律を弾きます。それにしてもなぜガルフ・ストリーム(メキシコ湾流)なんでしょう。

ショスタコーヴィチピアノ三重奏曲 第2番 op.67

 これもアファナシエフ主導なのか、全体に遅めで、ブラームスほどやりたい放題ではなかったですが、やっぱり重々しい、濃い演奏でした。特に第3楽章、最初の主題のところ、アファナシエフは和音を一つバーンとたたくと、いちいち手を膝の上に戻して、またおもむろにバーンとやるのです。この主題の重さを強調するためだと思いますが、これはちょっと驚きました。アファナシエフは、速いパッセージでは指が回ってないようなところもありましたが、まあそういう部分を聴くピアニストじゃないので。

シューマン:カノン形式の練習曲Op.56〜第3番

 アンコールは聞いたことがない曲でした。シンプルだけど優しいメロディの美しい曲で、誰の曲だろうと思ったら、ロビーにシューマンだと書いてありました。変更前のプログラムにあった、シューマンのトリオを楽しみにしてきた人へのサーヴィスでしょうか。いいアンコールだったと思います。

 終わってみれば、クレーメルよりもアファナシエフの存在感が目立った演奏会でありましたが、非常に面白かったので満足です。